ベリーショートショート 『ディズニーデート』

冬休みのある日、空は非常に晴れ渡り、小鳥がさえずる。その日の浦安はそんな爽やかな朝を迎えていた。

 

いや、スズメはやっぱりうるさいわ...

 

今日は彼女と初めてのディズニーデート。成人式で何もアトラクションに乗らず帰る羽目になって以来のことだ。シーの方は中学校の卒業後に行って、友達がDQNにレイジングスピリッツの前で殴られて以来行ってない。別に、そのことがトラウマになっているわけじゃないけれど。

 

とにかく胸が弾む。浮かれながら僕は家の外へ出た。しかし、寒い。冬の寒さが僕の顔の皮膚をチクリと刺すかのように刺激する。寒さに震えながら自転車に乗り、僕は彼女と待ち合わせする舞浜駅へ向かう。

 

ディズニーランドへの道は、全く夢を感じさせない。浦安市内の一般道に沿って行く。交通量が多く、無機質な鉄の塊が往来する。更に、その一般道に沿って灰色のコンクリートで形成された高架橋があり、鉄鋼団地もある。更に今日の寒さが虚しさをより一層濃くする。こうやって、色のない日常を通って行くと、夢の国へとたどり着くのだ。こうして見てみると、何だか、人の生きていく「道」を彷彿させるな...

 

そうだけれども、僕は浦安市が大好きだ。引きこもりだからあまり外に出る訳じゃないが、小学1年生の頃が住んでるから愛着がある。他の地区は景観が整っているところもあるし、事件などは滅多に起きないから平和だし、施設も充実していて暮らしやすい。とにかく穏やかな街だ。浦安は昔から存在した、「元町」と呼ばれる北側の地域と、「新町」と呼ばれる埋め立てて形成された南側の地域から成る。僕の住む「新町」はマンションなどの集合住宅が多く、浦安市の人口を増やす大きな要素となっている。外から引っ越して来た人が多いので、普段は住民の連帯が強いわけじゃない。しかし、2011年の東日本大震災の際に液状化で市内が泥まみれになったのだが、そこで清掃するボランティアに参加した際は連帯を感じた。人の温かみも感じられる豊かな街だ。

 

暫くすると、急に周りの雰囲気がガラリと変わる。ディズニーランドの周辺にはヤシの木が植えられており、常夏のリゾート地に急にワープしたかのように感じさせる。おっと、時間がない。急がねば。待ち合わせの場所へと、これまでの道のりで火照った僕は全力でペダルを漕いで急ぐ。

 

舞浜駅前で一人佇む彼女を見つける。やばい、遅刻だ!急いで行く。「ぉ待たせ...」慣れない有酸素運動に僕は完全に息を切らしていた。特に待たせたことを咎められることもなく、僕らはディズニーランドへと向かって行った。やばい、自転車どうしよう...

 

 

ディズニーは凄かった。何が凄いって。色々だよ!てめえ!その心、笑ってるね?舐めてんのかこら!おい、何ビビってんだよwwwwふえーいwwwwふえーいwwwwふえーいwwww

 

こうして僕らはディズニーランドを楽しんだが、気づいた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。ヤバい、日高屋閉まっちゃう。焦った僕は、まだ閉園時間まで時間があると駄々をこねる彼女を無視して、引きずって行くかのように手を引っ張る。しかし、彼女は中々来てくれようとしない。僕は強引に連れて行くのを諦め、一人でゲートとは逆方向のパレード観覧に向かう群衆を、川の逆流を乗り越えるが如く、掻き分け掻き分け突き進んでいく。そして、ようやくゲートの外へ出て、舞浜駅へと向かった。

 

遅い。足をパタパタさせながら待っていると、彼女も暫くして舞浜駅前に現れた。

 

「僕は自転車で新浦安まで行くから。君は京葉線で行って。え?私も自転車に乗りたい?ダメダメ、2ケツはダメでしょ。何言ってんの。一緒に行くってなったら、君歩きだよ?僕は自転車乗るよ。だって、僕歩きたくないもん。君が一緒に来なければ、僕は歩かずに済むんだから。なんで自転車で来たのって?電車賃かかるもん。いや、日高屋閉まっちゃうからさ。早くしよう。Time is money. 時は金なり。」

 

僕がそう言って、僕らはその場で別れた。

 

そして、僕は暗くなった道を駆け抜ける。急げ。急げ。日高屋は勿論待ってくれない訳ではない。でも、あの雰囲気を、あの味を、なるべく早くこの身体で感じたいのだ。とにかく、全速力で新浦安駅に向かった。

 

しかし、辿り着くと、待ち合わせ場所に彼女はいなかった。

 

(続く)