7日前にイッたウシ・前編(ソープ ・ルポ)

「事」を済ませ、残業に疲弊しきったサラリーマンに囲われながら、電車に座席に腰をかけ、家路につく中、「事の顛末」を僕はアルコールでぼんやりとした頭で思い出す。

 

元号が令和となった2019年。その年の、冬の寒さもまだ厳しかった年の瀬、我が友は酒を口につけつつ「3月、君の誕生日にソープランドに行こう。」というのである。

 

正直、「失う」のを何となく恐れていた僕は、心の奥底では躊躇していたのだが、酒の酔いもあり、また、やはりいつかは「卒業」せねばならない日が来るとも思い、覚悟を決め、その場で快諾してしまった。

 

その誓いの日から一ヶ月ほどは、そのことは特に気に留めずに過ごしていた。今年で学生としての身分を奪われる立場にあったので、最後まで学ぶ者として振る舞おうとしていたのである。

 

しかし、2月に入ると、春休みとなり、じっくり物事を考える暇を得ると、12月の契りを意識せざるを得なくなる。

 

ソープランド、それは童貞たる僕にとって甘い甘い夢のような存在であった。

 

生まれて二十数年、恋なるものとは無縁の人生を送ってきた。そんな僕にとって、風俗の王様とも呼ばれるソープランドは、女性が愛をもって接してくれて、快楽へと導いてくれる楽園のように思えたのである。

 

ただ一方で、一抹の不安も感じていた。「女性と上手くやりとり出来るだろうか、自分の愚息は他者からの刺激に慣れていないようだが、耐えきれるだろうか。」

 

それは、今思えば、くだらない悩みであった。

 

 

 

 

 

どんなに足掻いたとしても、時の流れは止まらない。約束の日は来た。

 

電車に乗っていた時は、全く緊張していなかった。ひたすらボーッと考え事をしていた。

 

ただ、現地にたどり着くと緊張感が高まる。心臓が重い錘に引っ張られているような感じだ。

 

友人たちと待ち合わせて、「店」の前まで向かう。

 

「店」は意外にも重厚な外見をしていた。もし、有事が起こったならば、今すぐにでもロボットに変形して、敵に立ち向かってくれそうだ。

 

ただ、その重みが初心者にはのしかかるのか、僕らは足を止めてしまう。

 

2、3分ほどはそこに留まっていたのではないだろうか。しかし、ここに居ても仕方ないということで、覚悟を決める。

 

自動ドアが開くと、昼の会社で、部下にパワハラをしてそうな見た目の中年男性のボーイが迎えてくれた。

 

ただ、その見た目とは裏腹に丁寧な挨拶で僕らを迎えてくれる。

 

いよいよか。ボーイの方の指示に従い、階段を上っていく。

 

すると、最初の踊り場に差し掛かったところで、地面がドンと鳴る。心が張り詰めた中にいた僕は心底驚く。なんで、ここだけ柔なんだ。

 

気を取り直して、上の階にたどり着くと、待機室に通される。内装は洋風の洒落たホテルみたいで、行ったことないが、ラブホテルも多分こんな感じなんだろうなと思う。

 

ソファに三人で腰をかけ、出された茶を啜りながら、女の子を選ぶためのカードが来るのを待つ。

 

しばらく待つと、これまた中年の男性が細長い厚紙で作られていそうなカードを持ってくる。

 

そこには、女の子の源氏名、顔写真、そしてスリーサイズが記載されていた。

 

8枚ほどあっただろうか、あまりにも多い選択肢が、僕らに熟考を促す。

 

しかし、こんなの見たって、正直わからない。写真だって、パネマジがあるっていうし。性格なんてカードを見れば決してわかるものではない。

 

とにかく、考えに考えを重ねて、二枚のカードに絞る。その際の判断基準はバストサイズであった。とにかく大きい方を選んどけみたいな。

さて、ここからどうしようか、そう思った瞬間であった。

 

二枚のうちの片方を友人に取られてしまう。

 

ああ!そっちにしようと思ったのに!

 

致し方ない。もう片方を取ろう。

 

その子のカードをボーイの人に渡す。

 

そして、4、5分待つと、僕が呼ばれる。

 

3人一緒に来た中で一番乗りであった。別に、嬉しくとも何ともない「一位」だ。

 

一人で行く際、残る友人たちにエールを送るようなことをした記憶がないでもないが、これは寧ろ自分を鼓舞するべく行ったものであった。

 

待機室から出ると、また違うボーイの人から、もう1階上がるように伝えるられる。

 

指示された階段を登りながら思う。どんな感じのお方が僕のお相手をしてくれるのだろうと。

 

登りきろうとしたところで、その見目が僕の瞳に写る。

 

その刹那のことであった。

 

「パネマジやないかい!」

 

嘆くような虚しいツッコミが僕の心の中で響き渡る。

 

予想を遥かに上回った、ふくよかな女性であった。

 

まあ、しかし、何だ。大変失礼な物言いなのかもしれないが、何とか、お顔などを見ても許容は出来そうである。

 

嬢は非常に丁寧に対応してくれる。

「○○です。」彼女は健気に挨拶してくれる。

 

嬢に案内された部屋に入ると、見慣れぬ光景が目の前に広がっていた。

 

そこは赤を基調とした壁に覆われ、妙に薄暗く、いかにも男女の密会のために作られたような雰囲気であった。

 

まあ、要するに、空間がもう、エッチっていうことだ。

 

そして、土の色をしたタオルで覆われるベッドが奥の方にあり、部屋の手前にはシャワーとバスタブが併設されていた。

 

先ほどの、写真手品で僕の心は粉々になりかけていたが、この部屋の醸しだすエロスは若干ではあるがその再生をもたらしてくれた。

 

「そこに座って」

 

僕は茶色いタオルに覆われたベッドに腰掛けるように指示される。

 

そして、嬢は僕にバンザイするように促す。

 

最初のうちは、嬢に脱がしてもらっていた。しかし、人に服を脱がされるような経験の少なかった童貞キモオタクは、それにまどろっこしさを感じてしまい、自分で脱ぐことをその場で宣言した。

 

下着を脱ぐタイミングになると、差し出された茶のタオルで、自らのシモを隠すように嬢に言われる。

 

そんなに凶暴なシロモノではないのだがな。

 

とにかく、言われたとおりに、タオルで覆う。

 

また、これを機に、仮性包茎を隠すべく、自ら手で剥く。

 

一方、嬢も脱ごうとする。

 

「恥ずかしいから見ないで」

 

嬢は甘えたような口調で言う。

 

本当に見ちゃダメなのか、それとも、これは恋人プレイの一貫に過ぎず、「見ても良い」ことを意味する不文律に過ぎないのか。弱気な未熟童貞チンポ侍である僕には到底判断が付かなかったのだが、とにかく「見るな」と言われてるのだから、見ない素振りはしておこう。

 

ということで、手で目を覆う。

 

しかし、やっぱり、女性の身体に興味をそそられてしまうのが、サムライの本能。

 

指の間に隙間をつくり、まさに、垣間見る。

 

やっぱり、中指と薬指の間から覗くと、入道雲のような体が目の前で顕になっていく。

 

しかし、これはこれでそそるな。これから、このカラダと色々と致すのだ。そう思うと、僕のカタナもムクムクと鋭くなっていった。

 

嬢も準備が整ったようで、僕の方に向けて、少し笑いながら一言こういう。

 

「え、本当に見ないでいたの?」

 

小馬鹿にされたような感じであった。

 

恥ずかしい。武士の名折れである。

 

我々はシャワーの方に移動する。

 

嬢は泡立てて、身体を洗ってくれる。

 

なんだか、心地が良い。脂肪に覆われたカラダが僕のカラダに纏わりつくのは、気持ちが良い。

僕のカラダの表裏、その全てが洗われていく。

 

こうもされると、僕のカタナは、調子が整ってくる。

 

「大きくなってる」

 

嬢の恋人プレイはまだまだ健在なようである。

 

そして、嬢は我が刃を扱き、咥える。遂に。これ自体初めての経験である。

 

ん。まったりというか、もったりというか。全く刺激がない。なぜだ。

 

激しく扱いてもらっても、なんだか。不感症か?

 

おい、どうなってるんだ。我が刃は。右手で研ぐときは、あんなに悦ぶというのに。

 

「気持いい?」

 

相変わらず甘い声で嬢は僕に尋ねる。

 

正直、自分でシコる方が気持ちいいけど...。そうとは言えなかった。

 

全身の泡をシャワーで流してもらうと、湯の浸ったバスタブに入るように言われる。

 

風呂、ちょっと温いが、普通に気持ちがいいな。

 

 

 

 

 

この時点で、もう、正直、この後に僕の身に起こることは実は大したことはないんじゃないのかと直感していた。

 

そして、この悪しき第六感は見事に当たり、僕は混沌の渦の中へと巻き込まれていくことになる。

 

前編終わり